阿美の本棚

阿美の好きな書籍の言葉や、最近好きな「鬼滅の刃」に関するレビューや考察(ネタバレしています)を書いています。

柳橋物語/むかしも今も

*** 柳橋物語より ***

 
「人間は調子のいいときは、自分のことしか考えないものだ。自分に不運がまわってきて、人にも世間にも捨てられ、その日その日の苦労をするようになると、はじめて他人のことも考え、見るもの聞くものが身にしみるようになる」

「人間は正直にしていても善いことがあるとはきまらないもんだけれども、悪ごすく立廻ったところで、そう善いことばかりないものさ」


「よくわかるわ、幸太さん、あなたは本当におせんを想って呉れたのね、-- 庄さんがお嫁さんと歩いているのを見たとき、あたし躯をずたずたにされるような気持ちだったの、苦しくて苦しくって息もつけなかった、・・・・胸が潰れてしまいそうな苦しい辛い気持ちだったわ、幸太さん、あなたの云ってくれた呉れたことが、そのときはじめてわかったのよ、-- あなたの苦しいといった気持ちが、辛かったと云った気持ちがどんなものだったか、そのときはじめてあたしにわかったのよ」
 

*** むかしも今もより ***

「- 人間は金持ちでも貧乏人でもみんな悲しい辛いことがあるんだ、昨日までの旦那が今日からかごかきになるし、飲みたいだけ酒を飲んでぴんぴんしていた者が、急にお粥も食べられない病人になっちゃうんだ、…・昨日までいい仕事をさせて呉れたお店が今日そっぽを向いて相手にしない、するとお米も買えなくなってしまう、- しょうがねぇ、へんな物を喰べながらまたどこかしら仕事を捜すのさ、うん、…・それが世間ていうもんだからね」


「あたしのことを本当に心配し、あたしのために本気で泣いて呉れたのは、この世の中で直さ
んたったひとりよ、- 眼が見えなくなってから、初めてそれがわかったの、なんにも見えない
まっ暗ななかで、じっと坐って考えているうちに、だんだんそれがはっきりしてきたわ、…・眼の
見えるうちは気もつかないようなことが、見えなくなってからはよくわかるの、― あのひとを良
人に選んだのは眼が見えたからよ、見えない今は声だけでわかるの、…なにもかもよ、直さ
ん」